複数の人材紹介会社と契約していると、同じ候補者の推薦が2社から届くことがあります。書類を並べて初めて重複に気づく、という場面も珍しくありません。

「どちらの会社に手数料を払えばいいのか分からない」「後から二重に請求されないか不安だ」。判断の根拠があいまいなまま選考を進めると、紹介会社との関係がこじれ、採用そのものが止まりかねません。重複推薦の先後を決める法令上の規定は存在しないため、受付の記録で先着を判断できる状態を企業側でつくっておくことが欠かせないでしょう。

本記事では、重複推薦が起きる仕組みから、起きた時の3手順と受付を一元化する予防の運用まで解説します。

ほかのテーマは記事の一覧にまとめています。


重複推薦が起きる仕組み

重複推薦は、特定の紹介会社の不手際で起きるものではありません。求人を出す側も職を探す側も複数の紹介会社を並行して使うため、市場の構造として生まれるものです。

なお、本記事が扱うのは紹介会社どうしの重複です。

ここでは、重複が構造的に生まれる理由を、国の統計から解説します。

厚生労働省が公表している職業紹介事業報告書の集計結果には、集計上の注記が置かれています。

「求人者及び求職者は複数の職業紹介事業者を利用する場合があるため、新規求職申込件数及び求人数は重複計上がある」という一文です(厚生労働省『令和6年度職業紹介事業報告書の集計結果(速報)』)。全国の事業者から数字を積み上げる段階で、重なりが入り込むことを国はあらかじめ織り込んでいます。

実際の件数にも、この前提は表れています。令和6年度の新規求職申込件数は有料・無料あわせて約5,545万件、これに対して常用就職件数は約92万件でした(同)。

申込みの延べ件数が就職件数を大きく上回るのは、同じ人の登録が複数の事業者にまたがって計上されるためです。

会議室の机に2社分の推薦書類を並べて見比べている企業の採用担当者の手元
写真: Darlene Alderson / Pexels

国がこの注記を置いているのは、複数社の併用が常態だからです。企業側が契約先の数を管理していても、職を探す側が同時に複数の事業者を使えば、推薦は重なります。

契約先が2社以上あれば、重複は構造的に起こり得るものです。かといって契約先を減らすと、受け取れる推薦の母数そのものが減ってしまいます。

手を打つ対象になるのは、推薦を受け付ける側の記録の持ち方です。


法令に定めのない「先着」の優先順位

重複が判明した時、まず持ち出されるのが「先に推薦した会社を優先する」という考え方です。ただし、この扱いを定めた法令上の規定は見当たりません。

ここでは、行政の要領に何が書かれていて何が書かれていないのかを整理します。

職業紹介事業者が守るべき実務の基準は、厚生労働省の『職業紹介事業の業務運営要領』にまとめられています。許可の基準から日々の運営まで、200ページを超える分量で細かく定めた文書です(厚生労働省『職業紹介事業の業務運営要領』(令和8年7月))。

この要領を全文にわたって確認しても、重複推薦の取り扱いや、複数社から同じ人物が推薦された場合の先後の優先順位を定めた規定は置かれていません。「重複推薦」「重複紹介」という語自体が出てきません。

一方で、要領が繰り返し扱っているのは求職者の情報の守り方です。求職者等の個人情報の取扱いは職業安定法第5条の5に、秘密を守る義務は同法第51条にそれぞれ規定があります(同要領)。

要領は秘密を「個々の求職者及び求人者に関する個人情報」と説明しています。業務上知り得た人の秘密を、正当な理由なく他に漏らしてはならないという定めです。

法令が定めているのは、情報の扱い方についての義務です。先後の順番については、法にも要領にも基準がありません。

先に推薦した会社を優先する運用は、商慣行として広く使われているものです。法令の裏づけがあるわけではありません。

商慣行である以上、当事者の認識がずれれば主張は平行線になるでしょう。

先後の判断を支えるのは、企業側の記録と契約時の取り決めです。どちらの会社が先だったかを社内の記録で示せない状態では、双方の言い分が並ぶだけで決着しません。

規定がないことは、争いにならないことを意味しません。手数料の支払先をめぐる主張が食い違った時、根拠として持ち出されるのは各社との契約書と、企業側に残っている受付の記録です。

重複推薦が起きた時の3手順

重複に気づいた時点で必要なのは、順番を決めて処理することです。急いで一方に返答すると、後から根拠を示せなくなるでしょう。

ここでは、重複が判明した時の初動を3手順で説明します。

1. 選考の停止と、受付日時の確認

最初にすることは、当該の選考をいったん止めることです。面接日程の調整や合否の連絡が走っている状態では、両社に別々の進捗が伝わってしまいます。

止めたうえで、各社からの推薦がいつ届いたかを確認します。メールの受信日時、紹介会社側システムの通知日時、電話で受けた場合は着信の記録が手がかりになるでしょう。

分単位まで残っている記録を優先してください。

2. 双方の紹介会社への、事実の共有

受付日時を押さえたら、双方の紹介会社に重複が起きている事実を伝えます。片方にだけ伝えて処理すると、伝えなかった側は選考が進んでいると理解したまま動き続けます。

伝える情報の範囲には配慮が必要です。紹介会社は、求職者の個人情報の取扱いと秘密を守る義務を負っています。

企業側も、一方から受け取った推薦の中身をそのまま他方に開示してよいわけではありません。共有するのは重複が生じている事実と、受付日時の前後関係にとどめるのが無難です。

3. 基準に沿った整理と、判断根拠の記録

最後に、決めた基準で一方に整理し、判断の根拠を記録に残します。残すのは各社の受付日時、適用した基準、双方に連絡した日付と担当者名です。

記録がないと、同じ争点が次に起きた時に一から議論することになります。整理の連絡は口頭で済ませず、文面で残る形にしてください。

オフィスのデスクでパソコン画面のメール受信日時を確認しながらメモを取る人事担当者
写真: Mikhail Nilov / Pexels

初動で選考を止めるのは、手数料の請求が二重になる事態を避けるためでもあります。重複に気づかないまま両方の選考を進めて内定に至ると、2社がそれぞれ自社の紹介で決まったと主張できる状態が生まれます。

その場面で根拠になるのは、受付日時の記録です。

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受付を一元化する予防の運用

起きた後の処理を整えるだけでは、同じことが繰り返されます。予防の中心は、推薦がどこに何時に届いたかを1か所で言える状態をつくることです。

ここでは、重複を防ぐ運用を、最優先の打ち手から順に説明します。

最優先の打ち手は、複数の紹介会社の運用を最適化することです。具体的には、推薦の受付窓口を1か所にまとめ、届いた順にそのまま記録していく形にします。

窓口が部門ごとに分かれていると、同じ人物の推薦が別々の担当者に届き、社内で突き合わせるまで重なりが見えません。受付が1本になっていれば、名寄せは受け取った時点で終わります。

契約時に重複時の扱いを取り決めておくことも有効です。どの時点をもって先着とするか、重なった場合にどちらの手数料が発生するかを、あらかじめ条項として残しておきます。

契約で確認しておきたい項目は人材紹介会社との契約書で押さえる条項にまとめました。

紹介会社どうしではなく、自社の採用サイトからの直接応募と推薦が重なった場合の手数料は直接応募と推薦が重複した時の判断手順で整理しています。

各社への一次回答を早く返すこと自体も、予防として働きます。推薦を受けてから返答までの時間が短いほど、他社の推薦と重なったまま滞留する期間は短くなるでしょう。

返答が数日単位で止まると、重複に気づく前に両方の選考が動き出します。

ただし、この運用は、ほかの業務と兼任した体制では続きません。推薦をその日のうちに記録し、各社に当日中の一次回答を返す作業は、採用担当が他の仕事を抱えたまま毎日回せる分量ではありません。

月初は回っていても、繁忙期に入ると記録が途切れます。

複数の紹介会社からの推薦を一覧表にまとめた画面を見ながら打ち合わせをする採用チーム
写真: MART PRODUCTION / Pexels

この部分を人とAIで代行するのが、一括エージェントです。推薦の受付と候補者情報の整理をAIが横断で引き受け、当日の一次回答や各社との調整は人が担当します。

契約している紹介会社は変えずに、受付と記録の運用だけを外に出す形です。一括エージェントが紹介会社の運用を代行した医療機関の例では、各社からの紹介数が約2倍に増え、2ヶ月で看護師2名の採用が決まりました。

複数社をまたいで運用を整える枠組みは、エージェントコントロールと呼ばれます。全体像は複数の紹介会社を束ねて運用する考え方に、管理が回らなくなった時の立て直し方は複数の人材紹介会社を使う時の運用にまとめています。


まとめ|法令の定めより、受付の記録

本記事では、重複推薦が起きる仕組みから、起きた時の3手順と受付を一元化する予防の運用までを整理しました。

  • 国の集計自体が複数社の併用を前提にしており、2社以上と契約すれば構造的に起こる
  • 先後の優先順位を定めた法令上の規定はなく、先着を優先する扱いは商慣行
  • 起きた時は、選考を止める・双方に事実を伝える・基準で整理して記録に残す

受付窓口を1本にまとめ、届いた順に記録し、当日中に一次回答を返す運用そのものは単純です。ただし、ほかの業務と兼任したまま毎日続けるのは簡単ではありません。

記録が途切れた期間に届いた推薦については、先後の判断がつかなくなるでしょう。

社内だけで続けきれないなら、受付と記録の部分を外に出す選択肢があります。一括エージェントは、今の契約先を変えないまま、その運用を人とAIで代行します。

よくある質問

Q. 重複推薦が起きた紹介会社との契約は、見直すべきですか

今の契約をやめる必要はありません。重複は、企業側と求職側の双方が複数の事業者を使う構造から生まれるものです。契約を切っても、次に契約した会社との間で同じことが起きます。見直したいのは契約先よりも、推薦をどこで受け付け、どう記録するかという運用のほうです。重複時の扱いを条項として加えておくと、次からの判断は早くなります。

Q. 先に推薦した会社を優先するルールは、法律で決まっていますか

決まっていません。厚生労働省の『職業紹介事業の業務運営要領』には、重複推薦の取り扱いや先後の優先順位を定めた規定は置かれていません。先に推薦した会社を優先する扱いは、実務で定着している商慣行です。法令の裏づけがない以上、判断材料になるのは各社との契約内容と、企業側に残っている受付の記録です。受付日時を分単位で残しておくことが、そのまま備えになります。

Q. 両社に重複を伝える時、候補者の情報はどこまで伝えてよいですか

必要な範囲に限るのが原則です。紹介会社は職業安定法上、求職者の個人情報の取扱いと秘密を守る義務を負っています。企業側も、一方の会社から受け取った経歴や面談の内容を、もう一方にそのまま渡すべきではありません。伝えるのは重複が生じている事実と、受付日時の前後関係までにとどめます。選考の中身や条件面のやり取りまで共有する必要はありません。


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