人材紹介会社との取引は、基本契約書を1通交わすところから始まります。紹介会社側のひな型がそのまま送られてきて、採用担当者は手数料率だけを確認して押印する流れが大半です。
ただし締結後に効いてくるのは、率そのものではなく条項の書き方です。専任条項・手数料の算定基礎・解約条項の3つは、他社を併用できるか、請求される実額がいくらになるか、いつ契約から抜けられるかを決めます。ここを読まずに押印すると、その後の採用活動の打ち手が契約に縛られかねません。
この記事では、発注する側の企業が契約書のどこを見るべきかを、職業安定法の枠組みとあわせて整理します。
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手数料率より、自社の動きを縛る3条項
人材紹介の基本契約書で最初に読むべきなのは、手数料率ではありません。専任条項・手数料の算定基礎・解約条項の3つです。
率は、契約書の交渉で決まる項目ではないためです。
職業安定法は、有料職業紹介事業者が受け取れる手数料を2つの方式に限定しています。省令で種類と額が定められた上限制手数料と、あらかじめ厚生労働大臣に届け出た手数料表に基づく届出制手数料です(職業安定法 第32条の3)。
上限制を選んだ場合、紹介手数料は支払われた賃金額の100分の11(免税事業者は100分の10.3)が上限です。求人の申込みを受理したときの受付手数料も、1件710円が限度と定められています(職業安定法施行規則 第20条・別表)。
一方の届出制には、率の上限を定めた規定がありません。厚生労働省の業務運営要領も「厚生労働大臣に届け出た手数料表の額を徴収することができる」とするにとどまります(厚生労働省『職業紹介事業の業務運営要領』第6 手数料)。
つまり率は、法令が一律に決めた数字ではなく、紹介会社が事前に届け出た表に沿った数字です。契約書の交渉で動く幅は、もともと大きくありません。
引き下げを強く求めるほど、紹介会社の中で自社の求人が後回しになる可能性もあります。実額を動かしたいのであれば、次に挙げる条項のほうが確実でしょう。
- 専任条項|他社の併用と直接応募の線引き
- 手数料の算定基礎|何を年収とみなすか
- 解約条項|予告期間と、解約後に残る義務
いずれも法令が中身を決めておらず、契約書の文言だけで確定します。自社の事情に照らして条項が妥当かどうかの最終判断は、弁護士等の専門家に確認するのが安全です。

専任条項|他社併用と直接応募の線引き
1つ目は、募集の入り口をどこまで他社に開けるかを決める条項です。
専属・専任の定めがある契約では、契約期間中に同じ求人を他の紹介会社へ出すことが制限されます。募集を1社に固定する定めなので、対象の範囲を締結前に読みます。
確認するのは、専任の対象範囲、期間の定め、違反したときの効果の3点です。特定の職種だけを専任にする書き方であれば、ほかの職種は自由に動かせます。
もう1つが、紹介会社を介さない直接応募の扱いです。推薦を受けた人が後日、自社の採用サイトから応募してきた場合に、どちらの入り口として扱うかを決める定めがあります。
推薦から一定期間内に採用したときは紹介手数料の対象とする、という書き方が一般的です。期間の長さと起算点、つまり推薦日から数えるのか選考終了日から数えるのかで、対象になる候補者の範囲が変わります。
採用サイトやスカウトを併用している企業ほど、この線引きは実額に効いてくるでしょう。応募の日付と入り口を記録しておけば、後から確認できます。
何社と契約するかという判断は、契約書の読み方とは別の論点です。社数の決め方は契約社数の考え方で扱っています。
手数料の算定基礎|同じ料率でも請求額が変わる
2つ目が、実額をいちばん大きく動かす条項です。料率が同じでも、何を年収とみなすかが違えば請求額は変わります。
そもそも「理論年収」は、職業安定法にも同法施行規則にも出てこない語です。定義は各社の手数料表と契約書に委ねられています。
上限制手数料であれば、算定の基礎は「支払われた賃金額」と決まっています。実額が基準なので、見込みが入り込む余地はありません(施行規則 別表)。
届出制にはこの縛りがなく、入社時点の見込み額を基礎にできます。契約書から拾う項目は、次の3つです。
- 賞与を含むか、含む場合は何か月分か
- 固定残業代や各種手当を含むか
- 試用期間中の減額を反映するか
たとえば月給30万円・賞与年2か月分の求人であれば、賞与を入れるかどうかだけで算定基礎は60万円動きます。
あわせて読むのが、手数料が発生する時点です。内定承諾日か入社日か、試用期間の満了後かで、発注する側が抱えるリスクは変わります。
発生が早いほど、入社辞退や早期離職の分まで先に払う形になるでしょう。
早期離職時の返金も、職業安定法上の明示事項のひとつです。読み方そのものは返金規定の読み方で扱っているため、本記事では契約書の確認項目のひとつとして挙げるにとどめます。

解約条項|予告期間と、解約後に残る義務
3つ目は、契約から抜けるときの条件です。締結時にはほとんど読まれない一方で、運用を見直す局面では必ず効いてきます。
まず見るのは、契約期間と自動更新の有無です。1年の自動更新で、解約には3か月前の書面通知が必要という条件であれば、更新日の3か月前を過ぎた時点で次の1年が確定します。運用の棚卸しは、この期日から逆算します。
次が残存条項、つまり解約後も効力が残る定めです。とくに確認したいのが、解約前に推薦を受けていた候補者の扱いです。
解約後に採用が決まった場合でも手数料の支払い義務が残る、という定めが置かれることもあります。義務の残る期間の長さで、いつ解約するかの判断が変わります。
秘密保持と個人情報の取扱いも、解約後に残るのが通例です。紹介会社から受け取った候補者情報を社内でどこまで保管できるかは、解約後の期間も含めて読んでおきます。
もっとも、条項を読み直した結果として契約を解約する場面は、実際にはそう多くありません。契約を結び直さなくても打てる手のほうが多いためです。
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3条項を読み直したあとに取るべき打ち手は、契約の巻き直しではありません。最優先は、いま契約している複数の紹介会社の運用最適化です。
締結済みの契約でも、動かせる範囲は広く残っています。専任の定めがなければ他社を並行して動かせますし、算定基礎と解約予告の期日が分かれば、どの会社にいつ力を配分するかを決められます。
紹介会社を選び直すための話ではありません。契約書はそのまま残したうえで、どの会社にどれだけ情報と時間を渡すかを組み替えるという意味です。
エージェントコントロールは、契約中の各社を横断で見比べ、力の配分を決めていく進め方を指します。全体像は複数社を束ねる運用の考え方で解説しています。
ただし社数が増えるほど、窓口とのやり取りや候補者情報の管理も膨らみます。社ごとに違う条項を頭に入れたうえで推薦に当日反応するとなると、採用を兼務している体制では回りません。
そこを人とAIで埋めるのが一括エージェントの役割です。社ごとの契約条件と候補者の進捗を1か所に集め、推薦への当日返信、求人票の手直し、担当者との関係づくりまでを引き受けます。
ある医療機関では、紹介会社を1社も入れ替えないまま運用だけを変え、紹介数が約2倍に増えました。2ヶ月で看護師2名の採用に至っています。

まとめ|率ではなく、自由度から読む
この記事では、人材紹介の契約書で確認すべき点を、専任条項・手数料の算定基礎・解約条項の3つに絞って整理しました。
手数料率は各社が届け出た手数料表で決まるため、契約書の交渉で動く幅は限られます。実額と自社の動きやすさを左右するのは、他社を併用できるか、何を年収とみなすか、いつどう抜けられるかの3点でしょう。
とはいえ、条項を読み直したところで、社ごとの条件を把握しながら日々の推薦に当日反応するのは、採用を兼務している体制では手が回りません。契約書の理解と、推薦を増やす運用は別の仕事です。
一括エージェントが引き受けるのは、この部分です。契約はいまのまま、社ごとのやり取りと管理だけを外に出し、推薦の数を増やしていきます。
よくある質問
Q. 契約書の条件に納得できません。紹介会社との取引はやめるべきですか
やめる必要はありません。条項が不利に見えても、専任の定めがなければ他社を並行して動かせますし、算定基礎が分かれば予算の見通しは立てられます。取りかかる順番としては、契約を維持したまま運用を組み直すほうが現実的でしょう。推薦への当日返信と求人条件の具体化だけでも、届く推薦の数と精度は変わります。
Q. 自動更新の契約を、途中で解約できますか
契約書の定め次第です。多くは契約期間と自動更新、そして解約の予告期間がセットで書かれており、予告期間を過ぎると次の期間が自動で確定します。あわせて確認したいのが残存条項です。解約前に推薦を受けていた候補者を後から採用した場合に、手数料の支払い義務が残ることもあります。解約日だけでなく、義務が残る期間まで含めて判断するとよいでしょう。
Q. 直接応募してきた候補者にも、紹介手数料はかかりますか
これも契約書の定め次第です。推薦から一定期間内に採用した場合を対象とする条項が置かれていることが多く、期間の長さと起算点で範囲が変わります。採用サイトやスカウトを併用している企業は、締結前に線引きを確認しておくと安全です。すでに締結済みであれば、応募経路の記録を残しておくことが実務的な備えになります。実際に重複した場合に手数料の対象となる条件と照合の手順は直接応募と推薦が重複した時の判断で解説しています。
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