早期離職で問われる、人材紹介の返金規定
人材紹介で1人を採用したときの手数料は、採用1件あたりにならすと全国平均でおよそ103万円です(厚生労働省『職業紹介事業報告書(速報)』)。その人材が入社まもなく退職した場合、支払った手数料が戻るかどうかは契約に書かれた返金規定(返戻金)の中身で決まります。
規定を読み込まないまま契約を進めると、退職後の交渉で希望した水準に届かず、損失をそのまま抱え込むことになりかねません。返金の可否を分けるのは、退職後の交渉力ではなく、契約を結ぶ前にどこまで読み込んだかです。
この記事では、返金規定の仕組み、揉めやすい論点、契約前のチェックリスト、トラブル時の相談先までを、発注する企業の損得目線で整理します。
関連記事は一括エージェントの記事一覧から参照できます。手数料そのものの水準は人材紹介の手数料相場と「高い」の本音で扱っています。

人材紹介の返金規定(返戻金)とは
返金規定とは、紹介で採用した人材が一定の期間内に退職した場合、支払った手数料の一部が戻る取り決めです。返戻金制度とも呼ばれます。
考え方は単純です。早期に退職した分は紹介の成果が出なかったとみなし、手数料の一部を返還します。
返還の割合は在籍した期間が短いほど高く、長くなるほど低くなる設計が一般的です。入社直後の退職なら多め、ある程度勤めてからの退職なら少なめという段階が置かれます。
前提として押さえておきたい点が2つあります。
1つは、返金率も対象期間も会社ごとに異なることです。「入社後◯か月まで」「◯%返金」という数字に業界共通のルールはなく、各社が自社で定めて契約書に記載しています。
そのため、相場感だけで判断すると、想定していた金額と実際の返還額が食い違います。
もう1つは、返金が法律で義務づけられているわけではないことです。職業安定法は、手数料や返戻金の内容を発注企業へ明示することを求めています。
ただし、制度そのものを設けるかどうかは各社の判断にゆだねられています(厚生労働省『職業安定法に基づく省令及び指針の一部改正』)。返金規定の薄い契約も、規定そのものがない契約も存在します。
返金と並ぶ選択肢「再紹介」
退職時の埋め合わせには、金銭を返す以外の方法もあります。代わりの人材を無料でもう一度紹介する形で、フリーリプレイスメントなどと呼ばれます。
どちらが有利かは状況によります。すぐに次の人材が必要な局面では再紹介が機能し、採用そのものを仕切り直す局面では金銭の返還が実利にかないます。
契約によっては「返金か再紹介のいずれか」と定められ、発注する企業の側で選べない場合もあります。ここも確認すべき論点になります。
返金でトラブルになりやすいポイント
返金は、契約書に記載があれば安心という性質のものではありません。ここでは実際に揉めやすい論点を整理します。
国の調査では、紹介事業者との間で「問題や困りごと、トラブルがあった」と回答した発注企業が34.0%に上っています。多いトラブルの筆頭は「紹介された人材がすぐ辞めてしまう」ことでした(厚生労働省委託『職業紹介事業者向け トラブルを未然に防ぐためのポイント・事例集』令和4年度。調査は『採用における人材サービスの利用に関するアンケート調査』令和3年6月実施)。
早期離職と、その後の返金は、トラブルの中心に位置しています。揉めやすい論点は次の6点にほぼ集約されます。
- 返金率の認識のずれ(全額という想定に対し、契約は在籍期間に応じた一部返還)
- 対象期間の超過(「3か月以内」の契約で、退職が3か月をわずかに過ぎた)
- 退職理由の区分(自己都合のみが対象か、会社都合の解雇も含むか)
- 連絡なしの退職(退職日が確定せず、期間の起点が定まらない)
- 返金と再紹介の選択権(返金を求めても契約上は再紹介のみ)
- 起算日と支払時期の定めが曖昧なまま契約し、請求の段階で認識が食い違う
厚労省の事例集には、次の実例が載っています。入社して数日で休職に入り、そのまま4か月後に退職した人材について、退職の時点で契約上の返金対象期間である3か月を過ぎていました。
発注企業はほとんど役に立たずに辞めたとして全額の返還を求めたものの、紹介会社は期間を過ぎているため契約どおり返金はできないと回答し、トラブルに至ったという内容です(出典は上記の事例集)。
揉める原因の多くは、退職そのものではなく、契約の読み方が双方でずれていた点にあります。
いずれも契約の段階で条件を詰めておけば防げる範囲にあります。次章では、確認すべき項目を具体化します。

契約時に確認する損しないチェックリスト
返金で損失を抑える要点は、退職が起きてからではなく、契約を結ぶ前に条件を確定させることです。締結前に確認したい項目を、よくある落とし穴と並べて整理しました。
返金規定で確認すべき項目と、つまずきやすい点
| 確認項目 | ここを見る | よくある落とし穴 |
|---|---|---|
| 返金率 | 在籍期間ごとに何%戻るか | 「返金あり」だけ見て率を確認していない |
| 対象期間 | 何か月以内の退職が対象か | 3か月か6か月かを思い込みで判断する |
| 期間の起点 | 入社日か、内定日か、いつから数えるか | 起算日が曖昧で1〜2週間ずれる |
| 退職理由の扱い | 自己都合だけか、会社都合・解雇も対象か | 自己都合限定で、解雇は対象外だった |
| 返金か再紹介か | どちらを選べるか、企業が選択できるか | 再紹介のみで、現金は戻らない |
| 連絡なし退職の扱い | 突然来なくなった場合の起点・対象 | 退職日が決まらず期間判定で揉める |
| 支払時期 | 返金はいつまでに振り込まれるか | 時期の定めがなく先延ばしにされる |
| 明示書面の有無 | 違約金・返金の条件が書面で示されたか | 口頭説明だけで、後から食い違う |
一般的な確認項目を整理したもの。具体的な率や期間は各社の契約により異なります。
特に重要なのが、最後の「書面で示されたか」です。2025年4月から、紹介会社は発注企業に対して、違約金に関する定めを誤解が生じないよう、あらかじめ書面やメールで示すことになりました(厚生労働省『職業安定法に基づく省令及び指針の一部改正』)。
返金や違約金の条件が曖昧なまま商談が進んでいる場合は、書面での明示を求めてよいでしょう。
口頭で「だいたい返ります」と説明されても、後から数字が食い違えば、効力を持つのは契約書です。懸念のある条件は、契約を結ぶ前にすべて文字で残す姿勢が重要です。これだけで防げるトラブルが大半を占めます。
今の人材紹介の契約、返金条件まで把握できていますか?
何社と契約していて、それぞれの返金規定がどうなっているか。社数が増えるほど、ここは見えにくくなります。契約の棚卸しから、紹介の運用最適化まで、御社の状況にあわせて無料でご提案します。まずは現状のお話からどうぞ。
無料で資料を受け取るトラブルを防ぐ・起きた時の対処
確認を尽くしても、認識の相違が生じることはあります。発生時の動き方を把握しておくと、初動が変わってくるでしょう。
最初に行うのは契約書の読み直しです。返金率・対象期間・起点・退職理由の扱いを自社のケースに当てはめ、契約上どこまで請求できるかを確定させます。
感情的に全額の返還を求める前に請求可能な範囲を押さえたほうが、話は前に進みます。
そのうえで、紹介会社と誠実に協議するのが基本です。厚労省の事例集も、契約に定めのない事項や疑義が生じた事項は、双方が誠意をもって協議して決めると契約書に書いておくとよい、と促しています(厚生労働省委託『職業紹介事業者向け トラブルを未然に防ぐためのポイント・事例集』)。
明らかに人選に無理があった場合など、紹介会社の側に理由があれば、一部を返金する余地も残ります。
協議で解決しない場合は、公的な窓口に相談できます。職業紹介に関するトラブルは、各都道府県の労働局にある需給調整事業課(室)が受け付けています。
手数料の明示義務違反など、法令違反の疑いがあれば、相談・申告の対象になります。医療・介護・保育の分野には、求人企業向けの特別相談窓口も設けられています(厚生労働省『需給調整事業関係業務担当窓口一覧』)。
発生したトラブルは記録に残します。やり取りの日付、発言者と発言の内容、書面の写しの3点がそろっていると、協議でも相談でも話が通りやすくなります。

早期離職を減らす、紹介運用の整え方
返金は、損失を取り戻すための備えにすぎません。返還されても、採用にかけた時間と労力は戻りません。
実際に効くのは、早期離職そのものを減らし、紹介会社の運用を整える取り組みです。
早期離職の多くは、入社後のミスマッチから生じます。求人票で任せる業務と条件を明確に伝え、選考の途中で実際の働き方をすり合わせます。
この地道なやり取りが「入ってみたら想定と違う」を減らします。紹介会社の側から見ても、決まりやすく紹介しやすい企業という評価につながります。
最初に着手すべき打ち手は、契約している紹介会社を横断で把握し、運用を立て直すことです。どこが実際に動いているかを可視化し、推薦への反応や求人票を整える一連の運用を、エージェントコントロールと呼びます。詳しくはエージェントコントロールとはで扱っています。
返金規定の確認も、契約中の紹介会社をまとめて棚卸しする作業の一項目として進めると、抜け漏れが減ります。紹介会社を入れ替える話ではなく、いま契約している紹介会社をそのまま使いながら運用を立て直す順序です。
この運用最適化に並走させる補助として、人材紹介への依存度を下げる視点も置いておきます。紹介だけに頼る状態では、手数料も早期離職のリスクも外部の判断に左右されます。
採用の入り口を複数持てば、1件あたりの揺れに振り回されにくくなります。進め方は人材紹介に依存しない採用へに整理しました。
まとめ|返金を左右する「契約を読む力」
この記事では、人材紹介の返金規定と、契約前に確認しておきたい項目を整理しました。押さえておきたい点は次の7つです。
- 返金規定(返戻金)は早期離職の際に手数料の一部が戻る取り決めで、在籍期間が短いほど返還の割合は高い
- 返金率も対象期間も会社ごとに異なり、業界共通のルールも、制度を設ける法律上の義務もない
- 国の調査では、紹介事業者とのトラブルがあった発注企業は34.0%で、筆頭は早期離職
- 揉める原因は返金率・対象期間・起点・退職理由の認識のずれで、契約時に文字で詰めれば防げる
- 2025年4月から、違約金の定めは書面などで事前に明示される
- 解決しない場合は、管轄の労働局(需給調整事業課)に相談できる
- 根本対策は、早期離職を減らし、紹介会社の運用を整えること
返金の可否を分けるのは、退職後の交渉力ではなく、契約を結ぶ前にどこまで読み込んだかです。
もっとも、契約中の紹介会社の条件を1社ずつ突き合わせ、書面での明示を求め、推薦の状況まで追いかける実務を、日々の採用業務のかたわらで維持するのは簡単ではありません。社数が増えるほど、確認の抜けは起きやすくなるでしょう。
一括エージェントは、この横断の管理を人とAIで引き受けます。契約の棚卸しは、紹介運用を整える作業の一項目として組み込めます。
よくある質問
Q. 人材紹介で採用した人がすぐ辞めたら、手数料は必ず返ってきますか
必ず返るわけではありません。返金の可否は、契約に書かれた返金規定によって決まります。制度を設けること自体が法律上の義務ではないため、規定の薄い契約や、規定のない契約も存在します。在籍期間に応じて返還の割合が決まる形が多く、対象期間を過ぎていれば返らないのが原則です。最初に確認すべきは、契約書の返金率・対象期間・起点の3点です。
Q. 「自己都合の退職だから返金できない」と言われました。これは妥当ですか
契約の中身によります。返金規定には、自己都合の退職だけを対象にするものと、会社都合の解雇なども対象に含むものがあります。どちらに当たるかは契約書を読まなければ判断できません。自己都合に限定した契約では、企業側の判断で退職に至った場合に対象から外れることもあります。退職理由の扱いは、契約の前に必ず確認しておきたい項目です。
Q. 返金規定でトラブルになったら、どこに相談すればいいですか
まず契約書を読み直し、紹介会社と誠実に協議するのが基本です。解決しない場合は、各都道府県の労働局にある需給調整事業課(室)が職業紹介のトラブル相談を受け付けています。手数料や違約金の条件が示されないなど、法令違反の疑いがあれば、相談・申告の対象になります。医療・介護・保育の分野には、求人企業向けの特別相談窓口もあります。
Q. 返金率や対象期間の相場はどれくらいですか
会社差が大きく、断定はできません。対象期間は入社後3か月とする会社が多く、6か月の会社もあります。返金率は在籍した期間が短いほど高く、長くなるほど低くなる段階的な形が一般的です。これはあくまで傾向であり、実際の数字は契約ごとに異なります。相場感で判断せず、自社の契約書に書かれた条件を確認する手順が確実です。
紹介会社の契約も運用も、人とAIでまるごと引き受けます
何社の紹介会社と、どんな返金条件で契約しているか。一括エージェントは、契約の棚卸しから、推薦への当日反応・求人票の最適化・紹介会社別のKPI管理までを横断で運用代行します。今の紹介会社はそのまま、手間とリスクだけ外に出しませんか。無料診断からお気軽にどうぞ。
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